【 07年01月28日 】二人の 老人

年が明けて早くも2月が来ようとしている。今年の冬も暖冬となり私個人的としては喜ばしい冬となっている。雪もまだ降っておらず、このまま春が来ればどんなによいであろうか。

丹沢山脈の中腹にある、とある場所。この場所は高校生の頃、何度も山頂を目指すためにベースキャンプを作って、体力を蓄えた場所である。今まで生きて来てこの場所が気持ちが一番落ち着き、自然のエネルギーを吸収できる、いわば私にとって『聖地』のような場所である。車で行けることもあり最近でも一人でふらりと出かけることもある場所である。

雪といえば思い出されるのは数年前のこの時期。この私にとっての『聖地』でのできごと。その年は年末から正月にかけてキャンプし、初日の出を見ようと15人ぐらいでキャンプをしていた。例年ここでキャンプするのが恒例になっていた。12月30日の夜からおいしい料理を食べ、酒を浴びるように飲み、年が明けて予定通りに初日の出を拝んだ。

帰る頃にテントをたたみ、かたずけも終わった頃、辺りを見回すと周辺にゴミが多いことに気がついた。高校生の頃とはだいぶ様子が違っていた。この場所は私だけでなく多くの登山者が利用する場所であり、心無い登山者によって汚されていたのだ。

「よし!清掃して帰ろう!」


とみんなに声をかけた。

全員でゴミ袋を片手に『大清掃作戦』が始まった。

日常的なゴミから、空き缶、空きビン、ガスバーナーのボンベなど信じられないゴミが集められた。3時間ほどで大きなゴミ袋になんと25袋!とんでもない量である。

ここで問題が起きた。車は全部で4台。人数は15人。ゴミが車に積めなかった…。こんなにゴミがあるとは…。

どうしようもないので、とりあえずゴミを一カ所に集めて山の中に隠して放置した。

「後日回収しに来よう。」

そう話し合い、解散した。

それから日にちがたち、1月の終わり頃、仕事を終えて午後11時頃に3人でゴミを回収しに山に向かった。運悪くその日は雪が降っていた。かなりの降雪量であったが私の車は雪など問題にしない仕様であったためそのまま山に入った。

雪の山道は私の車でもさすがにヒヤヒヤであった。実はこの場所に行くには2つの道があった。一つは誰でも通れるノーマルなルート。もう一つは立ち入り禁止のゲートを開けて進むルートこの日は立ち入り禁止のルートで行くことにした。この道は危険なため通行禁止となっており、鎖でゲートが閉められている。しかし鎖は簡単に外せることから近道であるため時々、通行していたのだ。他に車が通らないので、このルートの雪は40cm以上も積もっていた。ゆっくりと力強く進んでいると前方に明かりがみえる。近づいてみるとそれは2tトラックであった。林道は細いので、そのトラックが道をふさいでいた。不審に思い車から降りてトラックに近づくと2人の老人が乗っていた。

「た、助けてください…。」

か細い声で一人の老人が窓越しに訴えかけてきた。

「どうしたんですか!!」

とたずねると、

「熊を打ちに来て、熊を見つけて猟犬をトラックで追っかけてきたのだが、この雪でトラックが滑って動かなくなっちまった。」

詳しく聞くと、丸2日間も何も食べずにトラックの中で過ごしていたようだ。歩いて脱出できる場所ではなく、二人とも死を覚悟していたようだ。この道は通行禁止なので我々以外の車は、まず通らない場所でもあったわけだ。

私は車からけん引ロープを出し、2tトラックにつなげ、友人の一人を私の車の後ろにあるハシゴに登らせてトラックの様子を見て指示を出すように伝え、窓を開けながら来た道を戻った。40cm雪が積もる山道を2tトラックをけん引するのはさすがに初体験であり、手に汗をにぎった。

「ここまで来れば大丈夫でしょう。」と雪が少ない道でけん引ロープを外し、老人と別れた。

それからまた道を進み、目的地に到着し、25袋のゴミを車に積み込み帰ることにした。

帰りはノーマルなルートにしようかと思ったが、嫌な予感がしたのでまた通行禁止のルートで帰ることにした。



予感的中!!




先程のトラックが、またしても立ち往生しているではないか!!

別れた場所から100mぐらいの場所であった。

トラックに駆け寄ると老人は先程よりもさらに衰弱しているように見えた。もう一度トラックをけん引し、今度はそのまま山を下りた。

一般道に出てけん引ロープを外した。

AXE「ここまで来れば大丈夫ですね。」

老人「有難うございました。ううっ…。」

老人は涙ながらにそう答えた。

老人「これを受け取りください…。」ともう一人の老人が3万円を私に差し出した。

AXE「いやいや。金が目的で助けたわけではないですから…。」

老人「でもあなた達がいなければ私達は間違えなく死んでいましたから。少ないですけど受け取ってください!」

受け取りを拒否し続けると老人は無理やり私のポケットに3万円を押し込んできた。それでも3万円を老人に無理やり返し、

AXE「じゃあ、こうしましょう。次に山でまたお会いすることがあったら、その時に缶コーヒーでもおごってください。」

老人「…。有難うございます。」と老人も納得した。

こうして2人の老人と別れた。

ゴミ満載の帰りの車の中で友人と、

「ちょっとカッコつけすぎたなぁ。ハハッ。」と私が言うと、友人が言った。

「そういえば、猟犬はどうなったんだ?」

「確かに…。」



とこんな雪の降るあの頃を思い出した…。