【 07年05月06日 】単独登頂の悲劇1

高校生の時、良く登っていた山がある。丹沢連邦の塔ノ岳である。この山だけで20回は登頂したであろうか。

23歳の頃、久しぶりにこの山に登ろうと思い、バイトが終わった時間から山のふもとに車を走らせた。

前の日から計画を立てた。山には頂上に到達するためににはいくつかのルートがある。高校生の頃によく使っていたルートとは別の『行者岳ルート』というのが存在する。名前の通りこのルートは行者(修業僧)が精神、肉体を鍛錬するために使っていた非常に険しい道が続くコースである。今回はそのコースを一人で日帰りで制覇してやろうというわけである。

ところがこの登山でハプニングが起こってしまった。。

山の計画は山岳地図を見て決めるのであるが、この山岳地図には頂上までの中継地点が書いてあり普通の人が登ると、ここからここまで『90分』というようにコースタイムが明記されている。この時間を合計して頂上までの到達時間を計画するのだが、私の場合はいつも、このコースタイムの半分の時間で登ることを目標としていた。

要は普通の人の倍のスピードで登るということだ。

この登山の計画も『2倍速』で計画し、そして登り始めた。さすがに行者岳コースというだけあり、登り始めていきなり急勾配な道であった。しかしペースを崩さずグングン登って行く。

1時間ぐらい経っただろうか。休憩をすることにし、崖の手前に生えている木に荷物を下し、木にもたれかかって休んでいた。ザック(登山用のリュック)から3リットルの水の入ったポリタンクを出し、チョコレートをつまみながら水を飲んだ。

そろそろ出発しようかと思い、荷物をザックに戻そうとした時、

「あれ?」






「水の入ったポリタンクがない???」


おかしい。さっきまでここにあったポリタンクが見当たらない。

いやな予感がして崖の下をのぞいて見た。

あった。崖の下にポリタンクが見えた。そこから見えたポリタンクの大きさは豆粒のように小さく見える。しかも、ふたを開けっぱなしである。

「終わった…。」


水無しでは登頂は不可能であろう。下山するのにも水が無いと厳しい。しばらく考えた。泣きたくなった…。



私は決心した。崖を降りることを…。

持っていたのは細引き(人がぶらさがるのにはギリギリの強度のザイル)だけ。この細引きだけで降りて戻ってこれるのであろうか?

考えてもしょうがない。行動あるのみ。無謀にも崖を降りて行った。

恐怖であった。こんなスリルはなかなかないであろう。どうにか崖下までたどり着きポリタンクを拾う。

「…。」

3リッター近く入っていた水が200mlぐらいしか残っていない…。これからまた崖を登らなくてはいけないし、頂上まで200mlの水だけでは到底無理な話だ。

とりあえず、慎重に崖を登り、元にいた場所に戻った。

すでに、のどがカラカラの状態であった。急いで山岳地図を開いた。と言うのも、山岳地図には水が手に入る場所が書いてあるのだ。

しかし…現在地から山頂までの付近には水が手に入る場所は無かった…

「下山したほうがまだ助かる確立はあるな…。」

そう感じていたのは事実だが、ここで引き返さないのが私の悪い癖。決めたことを覆すのは望まない性格。

ポリタンクにある残った200mlの水を一気に飲み干した。そしてザックを背負って覚悟を決めた。

「山頂を目指そう。」

そしてこれから先に起こるトラブルをこの時は考えもしなかった…。


つづく…。