【 07年05月13日 】単独登頂の悲劇2

私は飲み水も無い状態で、頂上を目指すことを決めた。

「そうだ!思い出した!」

自分の記憶では数年前に登った時に地図には載っていない沸き水があるところを発見した覚えがある。

具体的な場所は忘れてしまったのであるが、そこに現在も水が沸いているかどうかも分からない。一か八かの賭けである。

焦りと体力の消耗が足を重くする。

「他の誰かに遭遇すれば水を分けてもらえるかも。」

と甘い気持ちが頭をよぎるが、このコースはコースがコースだけにめったに登る人はいないし、この日は平日なのでその可能性は絶望するほど低い。

周りは杉の木で覆われた急勾配な道。荷物は軽いものの、全身に疲労感が蓄積していく。休憩を取ろうにも水が無いことには体力の回復は見込めない。

全力で走った。もう限界は超えている。時折、木の葉を口に含み少しでも水分を補給し、走った。

目的のポイントに近づいた。道からそれてヤブの中を進む。たしかにこの近辺だとは思っていたが、手掛かりがない。うっすらとした記憶だけを頼りに捜索を続ける。

もしここで水を発見できなければ…。

恐怖と苦しさが混沌と入り混じる






「あったーーーーーー!」

そこには岩からちょろちょろと沸いている水があった。

岩をなめるようにのどを潤し、ポリタンクに水を貯めてみるが、満タンにするにはかなりの時間がかかる。しかし、走ったせいで時間は予定の「2倍速」よりもさらに短縮できていたので長めの休憩でもおつりがくる。

パワー全快、完全復活!!

そこからまた頂上を目指す。復活した私には頂上まで一気に登ることが可能であった。

頂上に着くと平日の割に人が沢山いた。


(頂上にて23歳。若い…)



そこで体験したのが以前『動物的?』で話したシカのエピソードである。



(なついたシカ)



シカと遊んだ後に下山に入る。下山コースは登ってきたコースと違う道に決めていて、予定ではこのコースを進めば車のある元の場所に戻れる。

体力も万全だし、全速力で下って行く。

その途中、ふと道の脇を見ると、何やら『わき道』のようなものが目に入り調べてみた。

「ケモノ道だ!!」

ケモノ道とは動物が通る道であり、人間様は通らない道である。

ここでまた自分の悪い癖が出た。

気が付くと予定していたコースはそっちのけで、このケモノ道を歩いていた。

すでに道とは呼べない『道のような物』を進んでいる自分。方向は下にくだっているので「帰れるだろう。」と踏んでいた。

「あーーーーーーっ!!」





「%#&$?ーーーー!」


訳の分からない声を上げたと思う。






転落したようだ…。

ほぼ垂直に近い斜面をバウンドしながら、もみくちゃになりながら落下した。

体中に痛みを感じながらも意識を失わないように注意し、最後はザックで受け身をとりながら砂が舞い上がる場所で着地した。

目を開けると青空が見える。ハッと我に返り、骨折などしていないかを確認する。

「全身に痛みがあるが大丈夫だ…。」

起き上がり、辺りを見回す。

「どこだここは…。」

地図を広げてみるが、わからない。ケモノ道なんて載っているわけもないし、どこで転落したかもわからない。地図なんて自分の現在地がわからなければクソの役にも立たないものだ。

「終わった。俺は死ぬな…。」

冷静に状況を考えてそう思った。おそらくここに人が踏み込んだのは私が初めてだろうと言えるほどの場所であった。

「…。どうしよう。」

助けを待つか、自力で何とかするか…。

考えた。どうすれば助かるか考えた。

とりあえず動き回って活路を見つけようとしたが、思うように動けないほど険しい。方向もわからず、どちらに進んで良いかもわからない。

食糧も日帰り予定で一日と持たないし、テントも持参していない。

時間だけが過ぎて行く。じきに日も暮れるであろう。

ケモノ道を通っただけに、野生動物の脅威も感じずにはいられない。

「絶対、生きて下山してやるぜ!!」

なぜかワクワクしている自分に気がつく。どうしようもない性格だと思う。しかし、あいかわらず状況は最悪であり、リアルに死が待っているという状況はまったく変わらない。

岩の上に腰をおろし冷静になった…。

「これだ。この手でいこう!」

ある一つの案が浮かんだ…。

それは…。





END